イチローズモルトのラベルに描かれた一枚の葉——倒産した蒸留所の400樽を救った男の物語

ウイスキー
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イチローズモルトのラベルを初めて見たとき、なぜウイスキーのボトルに葉っぱが描いてあるのか不思議でした。ウイスキーのラベルといえば、蒸留所の風景や紋章が定番です。でもこのボトルには、白い紙の上に金色の線で一枚の葉が描かれているだけ。調べてみて、この葉がウイスキー造りの「すべての始まり」を意味していると知りました。

ラベルに描かれた「葉」の正体

ラベルに描かれた葉は、オークの葉。ウイスキーの樽に使われる木の葉です。

ウイスキーの個性は、原酒そのものよりも「どんな樽で熟成するか」で大きく変わると言われています。樽の素材であるオークの木は、何十年もかけて育てられ、その木から作られた樽の中でウイスキーが何年も眠ります。ラベルの葉は、そのすべての始まりを象徴しています。

イチローズモルトには「リーフシリーズ」と呼ばれるラインナップがあり、葉の色で中身が変わります。

葉の色シリーズ名特徴
白地に金色ホワイトラベル(本品)世界中の原酒をブレンド
緑色ダブルディスティラリーズ羽生+秩父の2蒸留所
赤色ワインウッドリザーブ赤ワイン樽で後熟
金色(濃い)ミズナラウッドリザーブ日本固有のミズナラ樽

葉の色で「どんな樽で熟成されたか」がわかる。ラベルが、そのまま中身のストーリーを語っています。

「Non Chill-Filtered, Non Coloured」——ラベルが語る姿勢

ラベルの下部に小さく書かれた「Non Chill-Filtered, Non Coloured」。この英語は、作り手の姿勢そのものです。

Non Chill-Filtered(ノンチルフィルタード)とは、「冷却濾過をしていない」という意味。通常、ウイスキーは冷やすと白く濁る成分が出るため、見た目を整えるために冷却して濾過します。イチローズモルトはその工程をあえて省き、原酒本来の成分をそのまま残しています。

Non Coloured(ナチュラルカラー)は「着色していない」。多くのウイスキーはカラメル色素で色を調整しますが、イチローズモルトは樽から出た自然な色をそのままボトルに詰めています。

手を加えない。ごまかさない。ラベルにわざわざそう書くのは、「そのままの姿を届けたい」という作り手の宣言です。

400樽を救った男——肥土伊知郎の物語

このウイスキーの背景には、一人の男の壮絶な物語があります。

肥土伊知郎(あくと いちろう)。1625年・江戸時代初期から続く造り酒屋の家系に、21代目として生まれました。祖父は羽生蒸溜所でウイスキー造りを始めた人物。大学卒業後にサントリーでウイスキーの基礎を学び、実家に戻りました。

ところが2000年、家業の東亜酒造が経営破綻します。

新しいオーナーが下した決断は「ウイスキー事業からの撤退」。蒸溜所には、1980年代に仕込まれ、20年近く静かに熟成を重ねていた原酒が約400樽残されていました。新オーナーにとって、それは「不要な在庫」。期限までに引き取り手が見つからなければ、すべて廃棄される運命でした。

小学1年生が社会人になるほどの時間をかけて熟成されたウイスキーが、捨てられようとしていたのです。

肥土は走り回りました。どこかに、この原酒を預かってくれる場所はないか。

手を差し伸べたのは、福島県の笹の川酒造。「これはメーカー1社の問題ではなく、業界全体の損失だ。長い時間をかけて熟成させたものを廃棄するのは”時間の損失”だ」——そう言って、倉庫の一角を提供してくれました。

400樽は、こうして生き延びました。

ゼロからの蒸留所——秩父で35年ぶりの挑戦

原酒を救っただけでは終わりません。肥土は自分の蒸留所を作ることを決意します。

2004年、秩父市にベンチャーウイスキー社を設立。2007年に秩父蒸溜所が完成しました。日本で35年ぶりにウイスキーの製造免許が交付されたことでも話題になりました。大手でもない、個人が、ゼロから蒸留所を建てたのです。

そして2024年3月、肥土伊知郎氏はイギリスの『ウイスキーマガジン』により「Hall of Fame(殿堂)」に選出されます。日本人5人目、最年少での栄誉。選出理由は「日本のウイスキー業界復興の先駆者として、失われつつあった製造方法に果敢に取り組み、技術革新をもたらした」こと。

倒産した蒸留所の400樽を救うことから始まった物語は、世界の殿堂にまで到達しました。

「ワールドブレンデッド」——世界を旅する作り手

ラベルに書かれた「World Blended Whisky」の文字。このボトルには、秩父蒸溜所のモルト原酒をキーモルトに、世界9蒸留所のモルト原酒と2蒸留所のグレーン原酒がブレンドされています。

肥土氏は自ら世界中の蒸留所を訪ね、最高の樽を探してきます。そしてそれらを秩父に持ち帰り、自らの原酒とブレンドする。「World Blended」という言葉には、「世界中を旅して、最高のものを秩父で一つにする」という哲学が込められています。

ラベルにも「He travels to find casks to perfect his blend」——「彼はブレンドを完璧にするために、樽を探して旅をする」と書かれています。

お家にイチローズモルトのレアボトルが眠っていたら

イチローズモルトには「カードシリーズ」と呼ばれる伝説的なコレクションがあります。トランプの絵柄をモチーフにした全54種類のボトルで、フルセットがオークションで約1.5億円で落札されたこともある、ウイスキー界の伝説です。

カードシリーズに限らず、イチローズモルトのリミテッドエディションや初期ボトルにはプレミアがつきやすい傾向があります。もし棚の奥に飲まないまま眠っているイチローズモルトのボトルがあれば、一度査定に出してみるのも一つの選択肢です。

ラベルが古いお酒や見慣れないボトルは、思わぬ価値がつくこともあります。
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こんな人に合う一本

  • 日本のクラフトウイスキーに興味がある方。大手蒸留所とは異なる、個人がゼロから立ち上げた蒸留所の一本です
  • 山崎とは違うジャパニーズウイスキーを知りたい方。大企業の伝統ではなく、一人の情熱から生まれたウイスキーです
  • ラベルの「Non Chill-Filtered, Non Coloured」に共感する方。手を加えず、ごまかさない姿勢が一本を通して貫かれています

基本情報

項目内容
正式名称イチローズ モルト&グレーン ワールドブレンデッドウイスキー
英名Ichiro’s Malt & Grain World Blended Whisky
通称ホワイトラベル
製造元株式会社ベンチャーウイスキー
蒸溜所秩父蒸溜所(埼玉県秩父市)
種類ワールドブレンデッドウイスキー
アルコール度数46%
容量700ml
価格帯定価4,235円(税込)/ Amazon実勢 約4,500〜4,600円
原酒構成秩父モルト(キーモルト)+世界9蒸留所モルト+2蒸留所グレーン
特記ノンチルフィルター、ナチュラルカラー

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ラベルの葉を、もう一度見てみてください。オークの葉脈が一本一本丁寧になぞられた、静かなデザイン。

この葉の向こうには、倒産した蒸留所の400樽を救い、ゼロから蒸留所を建て、世界の殿堂にまで到達した一人の男の物語があります。派手さのないラベルが、静かにそのすべてを語っています。


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