知多のボトルを初めて手に取ったとき、ラベルの手触りに驚いたことがあります。指先にざらっとした繊維の感触。紙が違う。山崎や白州のラベルとは明らかに素材が違いました。
和紙でした。その真ん中に、墨で「知多」の二文字。
ラベルを眺めてみよう
まず目に入るのは、ボトルの透明感です。山崎の琥珀色、白州の深い緑色とは対照的に、知多は透き通ったガラスをそのまま使っています。
ラベルは白い和紙。中央に力強くも繊細な墨の筆跡で「知多」の二文字。下部に控えめに「THE CHITA」「SINGLE GRAIN JAPANESE WHISKY」の英字。そして小さく「SINCE 1972」。
キャップシールには、白銀の地に濃藍(こいあい)の線が何本も引かれています。この線が表現しているのは「風」。知多蒸留所がある愛知県知多半島に、伊勢湾から吹き抜ける海風を視覚化したものです。
透明なボトル、白い和紙、藍色の風——すべてのデザイン要素が「風」というテーマに向かって設計されています。
「知多」の二文字を書いた人
ラベルの「知多」を書いたのは、書家・墨象家の荻野丹雪(おぎの たんせつ)氏です。NHK大河ドラマ「新選組!」の題字を手がけるなど、書と現代美術の境界を超えて活躍する芸術家です。
注目すべきは、サントリーウイスキーの題字を書家が手がけるのは「響」以来25年ぶりだったということ。山崎・白州が印刷体の漢字ロゴを使う中、響と知多だけが書家の肉筆を宿しています。
和紙ラベルに墨の筆跡。知多は「日本のウイスキー」であることを、文字ではなく素材と書で語っています。
43年間の沈黙——「サイレントスピリット」の物語
ラベルの「SINCE 1972」。知多蒸留所が設立された年です。ところが「知多」として世に出たのは、そこからさらに43年後の2015年のことでした。
では、43年間、知多蒸留所は何をしていたのか。
知多蒸留所で作られていたのは、グレーンウイスキー。トウモロコシなどの穀物を原料に、連続式蒸留機で蒸留するウイスキーです。グレーンウイスキーは業界で「サイレントスピリット(静かなる蒸留酒)」と呼ばれます。
なぜ「静か」なのか。グレーンウイスキーはほとんどの場合、ブレンデッドウイスキーの「土台」として使われ、表舞台に出ることがないからです。モルトウイスキーの個性を引き立て、全体を調和させる役割。オーケストラでいえば弦楽器のような存在——ソリストのように目立つわけではないけれど、その厚みがなければ音楽は成立しません。
知多蒸留所は43年間、まさにこの「静かなる存在」としてサントリーのウイスキーづくりを支えてきました。
響を支える「三本柱」の一つ
知多のグレーン原酒がどれほど重要かは、響の構造を知るとわかります。
| 蒸留所 | 設立年 | 原酒の種類 | 響での役割 |
|---|---|---|---|
| 山崎(大阪) | 1923年 | モルトウイスキー | 個性の中心 |
| 白州(山梨) | 1973年 | モルトウイスキー | 爽やかさの層 |
| 知多(愛知) | 1972年 | グレーンウイスキー | 調和の土台 |
知多を手に取るということは、響を構成する三本柱の一つを単独で知るということでもあります。
2015年に知多が初めてシングルグレーンとして発売されたとき、それはサントリー11年ぶりの新ブランドであり、「サイレントスピリット」が43年の沈黙を破って表舞台に立った瞬間でした。
こんな人に合う一本
- 響が好きで、その構成要素を知りたい方。響の「三本柱」の一つを単独で手に取れます
- 山崎・白州と並べて「サントリーの三兄弟」を比べてみたい方
- ラベルのデザインや素材に惹かれる方。和紙+墨の筆跡+藍色の風——すべて「日本」を素材で語るボトルです
- シングルモルト以外のウイスキーの世界を覗いてみたい方
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | サントリーウイスキー 知多(THE CHITA) |
| 蒸留所 | 知多蒸溜所(愛知県知多市) |
| 種類 | シングルグレーン ジャパニーズウイスキー |
| アルコール度数 | 43% |
| 容量 | 700ml |
| 希望小売価格 | 6,600円(税込) |
| 蒸留所設立 | 1972年 |
| 発売年 | 2015年(シングルグレーンとして初発売) |
| 現オーナー | サントリーグローバルスピリッツ |
※シングルグレーンとは、一つの蒸留所で穀物を主原料に造られたウイスキーのこと。大麦麦芽100%のシングルモルトとは製法が異なります。
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あのとき指先に感じた和紙のざらつきは、「日本のウイスキー」を言葉ではなく素材で語るためのものだったのだと、今ならわかります。
43年間、表舞台に出ることなく響の土台を支え続けた「サイレントスピリット」。その沈黙を破って世に出たとき、まとったのは和紙と墨と風のデザインでした。静かだけれど、確かにそこにいる——知多は、ラベルまでそういうウイスキーです。
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この記事を読んだ方へ
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「響」の構造を知る:
- 響のボトルに刻まれた「24の季節」 — ブラームスの交響曲から生まれた物語
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